リマインド ざっと スプリング(副題は「音楽が運ぶあの春」)

 

春に片足を突っ込んだくらいの今の季節、具体的には2月下旬から3月初めくらい、この時季になると思い出すことがある。

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高校生活最後の春、私は部活の卒業旅行の幹事をすることになった。

例によって家では集中できないので、昼になると近所のショッピングモールにふらふらと趣き、フードコートに座って旅先で使うホテルやバスを調べていた。

 

ショッピングモールのフードコートに座っていると、周りからは様々な雑音が聞こえてくる。

お母さんと小さな子が話しながら食事をしている音、某大手ハンバーガーチェーン店でフライドポテトが揚がったときに鳴るアノ音、店の前で何を食べるか話し合っている老夫婦の声、フードコートに隣接しているゲームセンターの機械音、フライドポテトが揚がったときに鳴るアノ音……。

結構にぎやかなものである。

(ところでゲームセンターによくある、ハローキティがポップコーンを作ってくれる機械は、周囲の人間に向けた宣伝のつもりなのか知らないけれども煩すぎるのでもう少しおしとやかに販売してほしい。公共の場で「出来たての、ポップコーンはいかがぁ?⤴︎」と一辺倒な売り文句を叫び続けるさまは、側から聞いてもプログラマー初心者がプログラムしたのだろうと分かる。挙句、終いには頼んでもないのに丸々フルコーラスで歌い出す始末である。こいつシラフじゃねえな、既に一杯ひっかけてんじゃないの?こんなキティの姿には、ボーイフレンドのダニエルだって興醒めしているであろうし、外国人が持つ「ジャパニーズゆるキャラ」「クールジャパン」のイメージが台無しである。

ていうかもういいよ。これは「ハローキティのポップコーンが運ぶあの春」って題じゃないんだから。脱線しすぎた)

 

 

兎にも角にもフードコートの賑やかな空気に溶け込みながら作業をするのが好きだった。

 

そして、その音の中にどうしても記憶に残る音があった。

フードコートのすぐ近くにレディースの衣服を扱う店がテナントとして入っていた。その店内では、近く発売されたばかりのJ-POPのシングル曲を数曲寄せ集めた有線をループで流していた。よくある感じのやつである。そのJ-POPの有線放送が店から漏れ出して、フードコート内の座るエリアによっては作業している私にもダダ漏れだったのである。

まあこれが黒板を爪で引っ掻いた音に代表されるような不快音を集めた有線放送であれば、すぐにでも席を移すだろうし、そのついでにショッピングモールに対して怒りの「お客さまの声」を投書することになるだろう。しかし、私自身この漏れポップをBGM代わりにしながら作業を進めることを気に入っていたし、なんなら敢えてこの店の近くの席に座ることさえあった。

 

さて、私が卒業旅行の計画をしていた当時、その店の有線放送ではループでかかる最新曲の中にAKB48365日の紙飛行機が入っていた。つまり長時間テーブルで作業に取り組んでいると三、四十分おきにこの曲がかかるのである。

普段私はAKB48の曲をすすんで聴くことは一切なく、メンバーについても著名な人なら名前くらいは何人か聞いたことがあるという程度であった。それでもこの曲はNHK連続テレビ小説「あさが来た」の主題歌だったということもあって、テレビや街中で耳にすることは多かったように思う。

朝の空®︎を見上げて 今日という一日®︎が

笑顔®︎でいられるように そっとお願い®︎した

思わぬところで、それこそ文節単位とかで商標登録されており、著作権に抵触してしまってはたまったものではないので、念のため、念に念を重ねて商標マーク(®︎)を付けておいた。

 

正直に書いてしまえば、AKB48のように女子が大勢集まったアイドルグループの歌といえば、ただ「見て!歌って踊っているワタシたち、若くて可愛い!子犬!子猫!子熊!キャンキャン!ニャオニャオ!シャケシャケ!」とはしゃいでいるようなイメージがあってどうも好きではなかった。

しかしこの曲は朝ドラを意識したからなのか、今までのイメージに反してしっとりとしており、繰り返し聴かされても苦にはならない。そればかりか、「これはこれでアリなんじゃない?」とさえ感じ始めてくる。この曲は特に、AKB48の主支持層とは異なる中高年の女性に広く支持されているらしく、音楽情報誌が10代から60代の男女を対象に調査した「2015年1番思い出に残っている曲」でも同年代層からの支持を集めて1位に選ばれたそうだ(ソースはWikipedia)。

 

また、2016年1月にミュージックステーションでこの曲を披露した際には、

司会のタモリ©︎も

「普通の人はパッとあれだけ聴いたら(AKB48の曲だと)分からないよ」

 

と評したそう(ソースはWikipedia

 

この発言から、どうやら私はタモリ公認の「普通の人」になれたようであることがお分かりいただけたであろう。

 

作詞者である秋元康氏によると、朝ドラの主題歌であるこの曲を書くにあたり、女性の生き方に制約の大きかった時代を言い訳にせず冒険し続けたヒロインの「屈託のない生き方」を、力を入れるとあまり飛ばず風に乗るとどこまでも飛ぶ紙飛行機に喩えたそうである。

(ソースはWikipedia。もはやこのブログページの「スポンサー」と呼べる域であり、このページはWikipediaで味付けされてコッテコテだ)

一体何を食べたらそんな発想が思い浮かぶのであろうか。

少なくともフライドポテトや出来たてのポップコーンでないことは確かである。

 

とにかく、私はあの曲を三、四十分おきに聴かされながら旅行の計画を進めたことで、あの曲は私にとって「卒業旅行準備のテーマソング」として脳内に定着してしまったのである。そんなこと誰が想像したであろうか。作詞作曲サイドも、実際に歌うAKB48も、歌についての情報をまとめている全知全能のWikipediaでさえも、誰も想像できなかったはずである。少なくともWikipediaには「レモンエフ氏が自認する、高校の部活の卒業旅行準備のテーマソング」なんて書いてはいなかった。

 

 

皆さんもこのように、聴くたびに何か特定の記憶が蘇ってくるという曲をいくつかはもっていることだろう。

 

また今年も春がやって来る。

早速、昨日は今年になって初めて「365日の紙飛行機」がラジオから流れてくるのを耳にした。今年もあと何回かは、そして来年以降も向こう何年か、この曲を耳にする機会は突如としてやって来るだろう。

その度に私はきっと思い出すのだ。

ショッピングモールのフードコートで卒業旅行の計画を立てていたあの春のことを。